大雨でもほぼ中止にならない競馬
競馬の特殊性を挙げだすとキリはないのだが、「大雨でも中止にならない」のもそのひとつだろう。
台風や雷、雪などが複合すると安全面への影響から開催中止もあるが、ただ雨が強いだけならレースは行われる。特殊な気象条件や馬場も含めて楽しむ競技性だ。運も実力のうち、外部要因への対応力も実力のうち、と言える。
ちなみにわたしは数年前に東京競馬場へ行ったところ、雹(ひょう)で中止という超レアケースにあたったことがある。運がいいのか悪いのか。
しかし、いつも通り競馬が行われるからといって、予想する側も「いつも通り」というわけにはいかない。大雨の日にはどう立ち回るべきなのか。いくつかのポイントをデータも添えながら整理しておく。雨が降った週末に必ず読み返す用の記事にしたい。
「雨が降ると荒れる」の落とし穴
そもそも雨が降ると何が変わるか。端的に言うと馬場状態である。
芝は水分を含むことでスピードが出にくくなり、スタミナを要する状態になる。走り方による巧拙もハッキリ表れる。
ダートは逆に、水分を含むことで砂が固まり、スピードが出やすくなる。スタミナはあまり要らなくなる。いわゆる「脚抜きがいい」という状態になる。これは砂浜をイメージしたら分かりやすいのではないか。乾いた白い部分を歩くのは体力を使うしスピードも出しにくいが、波打ち際の黒みがかった部分は比較的サクサク歩ける。
では馬場状態が変わるとどうなるか。よく「雨が降ると荒れる」と言われるが、これは半分正解で半分誤りである。
上記は2021年~2023年の中央競馬平地競走における、券種別の平均配当を示したものである。
芝は単勝~3連単の5券種全てで「重・不良馬場の方が配当が高い」=荒れやすいという結果が出た。ところがダートではあまり大きな差が見られず、むしろ馬連、馬単、3連単の3部門で「重・不良馬場の方が配当は低い」=荒れにくいという結果になっている。
1番人気馬の勝率は、芝の良馬場で34.2%、重・不良馬場で24.2%。ダート良馬場は33.3%、重・不良馬場は34.9%。やはり芝は道悪だと荒れやすく、ダートは道悪でもほぼ変わらない、むしろ少し堅くなる傾向が生じている。
つまり「雨だから荒れる」というのは芝のレースに限った話である。したがって大雨が降ってしまった日は、穴党は積極果敢に芝レースを買い、本命党はダートに安寧を求めるのが賢明な立ち回りとなる。
道悪で「本当に買える種牡馬」は?
ここからは「荒れやすい」芝の重・不良馬場にフォーカスして続けていく。
道悪になると「ステイゴールド系が強い」とか「タフな欧州血統が活躍する」といった話がよく聞かれる。これらの中には実際に正しいものもある反面、実際のデータに即していないものや、イメージが先行しすぎてむしろ過剰人気になるものも紛れている。
2024年1月時点の「道悪で本当に買える種牡馬」はどれか。直近3年のデータで、①重・不良での出走数15以上、②複回収率100%超をクリアした種牡馬は以下の通り。(印はサンプル数や回収率、複勝率を踏まえての総合評価)
◎ディスクリートキャット
◎ファインニードル
◎イスラボニータ
▲ジョーカプチーノ
◯スクリーンヒーロー
△ストロングリターン(※複回収率110%だが連対なし)
△アメリカンペイトリオット
▲Frankel(※良馬場でも好走率・回収率高い)
▲ケープブランコ
◯メイショウサムソン
◯クロフネ
◎エイシンヒカリ
◎スピルバーグ
◎ディープブリランテ
◎リアルスティール
◎ドリームジャーニー
とりわけ注目しておきたいのが赤字にした4頭。
イスラボニータにおそらく道悪巧者のイメージはないだろうが、なんと単回収率492%、複回収率145%だ。3場ともに道悪だった1月21日には京都の新馬を9人気ジャンヌローサが勝利、中山の若竹賞を4人気ルカランフィーストが勝った。
まだイメージがついていないという意味ではリアルスティールも。自身の現役時代は「高速馬場でこそ」のタイプだったし、代表産駒のレーベンスティールは不良馬場の1勝クラスでまさかの敗戦があった。その印象に反して産駒全体では芝重・不良で単回収率361%、複回収率119%と高い数値を残している。
複回収率トップの192%だったディープブリランテ。こちらは代表産駒モズベッロを思い出そう。ちなみに別件だが、ディープブリランテ産駒は距離短縮で回収率が高い。短縮のブリランテ、道悪のブリランテ。割と馬券的には使い勝手がいい種牡馬だ。
余談。前記した若竹賞は ルカランフィースト(イスラボニータ) アレグロブリランテ(ディープブリランテ) トロピカルティ―(リアルスティール) で4-9-6番人気決着、3連単28万馬券だった。シンプルだが強力な手掛かりと言える。
最後はなんといっても外せないドリームジャーニー。複回収率は162%。昨年の高松宮記念でぐちゃぐちゃの最内をつん裂いてきたトゥラヴェスーラの姿が印象的だが、ほかにもスルーセブンシーズ、ヴェルトライゼンデなどが道悪で好走している。ステイゴールド譲り、小兵ならではのデータと言える。
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反対に「道悪で消すべき種牡馬」はどれか。こちらは①重・不良での出走数15以上、②複回収率60%未満の2項目をクリア……だと対象が多すぎるので、③良馬場時より複勝率も回収率もダウンする、④道悪が上手そうなイメージを持たれている、の4観点から抽出した。
ドレフォン (単回/複回)18/26
バゴ 25/26
トゥザグローリー 43/17
ルーラーシップ 52/57
リーチザクラウン 0/9(成績は【0-0-1-20】)
エピファネイア 44/56
ダノンレジェンド 0/0(※27回出走して全て4着以下)
ロゴタイプ 24/16
ヴァンセンヌ 37/10
ダートとの両刀使いであるドレフォン、ダート種牡馬のダノンレジェンドが不振。ほか、欧州血統のバゴやロゴタイプも数字はかなり悪い。自身が不良の菊花賞を勝ったエピファネイアも、強烈に悪いわけではないが、よくはない。
ルーラーシップやトゥザグローリー、ヴァンセンヌは代表産駒(それぞれキセキ、カラテ、イロゴトシ)の印象で道悪が上手いと見せかけて、実はそうでもない。正確に書くとルーラーシップは良でも道悪でもほとんど成績は変わらないが、回収率はやや悪化する。
まとめ
内容をまとめると、
・大雨だけでは中止にならない競馬。馬も予想する側も対応力が問われる
・芝はスタミナ重視、ダートはスピード重視になる
・芝の道悪は高配当が出やすく、ダートの道悪は平時とほぼ同じかむしろ堅い
・24年1月時点のデータで、「芝の道悪で本当に買える種牡馬」はイスラボニータ、ディープブリランテ、リアルスティール、ドリームジャーニーあたり
・反対にドレフォンやバゴは意外と振るわないので注意
この記事内の(主に種牡馬の)データは数か月に一度のスパンで更新していこうと思う。繰り返しになるが、大雨が降った週末に一度立ち返る、それ用の記事として活用いただければ幸いだ。