日本ダービーひとり反省会

回顧・次走注目馬

粘りこみを図るシュヴァリエローズをシュトルーヴェが鮮やかに差し切った1時間後、わたしは新宿の寿司屋にいた。

といっても勝利の宴ではない。逆だ。タコ負け成人男性6人が肩を寄せ合ってスシローのテーブル席に座る姿は、それなりに奇特で、それなりに哀愁が漂っていたのではないかと思う。

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今年もダービーが終わった。頂点に立ったのはダノンデサイルと横山典弘。皐月賞競走除外からの鮮やかな逆襲、イン3からの鮮やかな抜け出しだった。

本命馬アーバンシックは見せ場なく11着に大敗。当然ながら馬券は声を出すシーンすらなく外れた。競馬というのはどんなに一生懸命予想をしても、外れるときは外れる。ひとつひとつの負けを引きずっていても仕方がない。それは分かっていながらも、今回はしばらく立ち直れなかった。というか今も立ち直れていない。

エコロヴァルツが逃げて1000m通過は62.2秒。時計が出る今の東京芝、そしてGⅠのペースとしては明らかに遅かった。大逃げの馬がいたオークスは4番手クイーンズウォークでも60秒前後。それよりさらに2秒以上のスローだ。そして後半1000mは56.8秒。シャフリヤールが勝った年の同57.0秒を上回る。後ろから外を回って差すのは絶対に無理である。

アーバンシックの敗因も「後ろすぎた」に尽きる。皮肉なものだ。何千、何万という字、言葉を費やして至った予想が、終わってみればたった5文字で片付く。しかしまあ、これを馬鹿馬鹿しいと感じる人間は、残念ながら不確実性と遊ぶこの娯楽には向いていないだろう。

さて。10年以上競馬を観てきてハズレにも慣れているわたしが、今回に限って悔しさを引きずっている理由について。それは「アーバンシックではなく」自分自身の敗着にある。端的に言うと、ダービーというレースの熱に浮かされてしまった。

全力を尽くして予想をした結果、どうやっても的中に辿り着けなかったと思えれば諦めもつく。しかし自分が今回出した結論について、後から振り返れば反省点が二つある。

まずは展開について。後ろが絶対に届かない超スローペース。これが完全に想定外の事象だったかといえば、みなさまもご存じの通り、そうではない。唯一の逃げ候補だったメイショウタバルが取り消し、前走で3番手以内にいた馬すらシックスペンス(それも1000m通過63.1秒)しかいないメンバー構成。こうなることは予見できたはずだ。

しかしわたしは差し馬に本命を打った。木曜の14時に枠順が確定すると、出馬表を改めて吟味し、「平均~やや遅めのペースで差しもそれなりに届く」と読んだ。ところが翌朝に逃げ馬が突如いなくなった。口では「考え直した」と言っていても、本当にゼロベースに立ち返って考えられていたか。一度出した結論を変えたくない、という心理が全くなかったか。断言する自信がない。

もうひとつは「ダービー向き」という言葉の呪縛である。トップスピードが高く、不器用で小回りが苦手な差し追い込み馬、皐月賞で差し遅れていればなおよし。ダービーではそういう馬を買うべし、いや、買わなければいけない、という強迫的な固定観念に囚われた。いま目の前の「2024年5月26日、東京11レース」を素直に直視できなかった。この2点が反省である。外れたという結果ではなく、大一番で冷静な過程を踏めなかったこと。これが悔やまれる。

全頭評価の動画では5頭に印を打った。アーバンシック、ジャスティンミラノ、レガレイラの人気3頭に加え、拾ったのがダノンデサイルとシンエンペラー。もし前残りに意識を働かせ、ゼロから予想を立て直していたら……。正解を掴み取っていた可能性も現実的にあったのだ。時すでに遅し。後悔先に立たず。残念無念また来年、である。

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悔恨の駄文はこのくらいにして、最後にレース自体についても講評しておこう。

ダノンデサイルは先行してインの3番手から内を割って出てくる形。もちろん展開(好騎乗)に恵まれた部分は大いにある。ただ、勝ち時計2:24.3は超ハイペースだった先週のオークス(2:24.0)とあまり差がなく、後半1000mは前記した通り日本ダービー史上最速。世代レベル自体はかなり高いのではないか。

思えばダノンエアズロックの新馬、アイビーSをはじめ、ショウナンラプンタの新馬戦、アーバンシックの百日草特別、ジャスティンミラノの共同通信杯とシックスペンスのスプリングS、コスモキュランダの弥生賞など、走破時計や後半のラップタイムに特筆点のあるレースは世代全体として多かった。ダノンデサイルの勝利もフロック視すると痛い目に遭いそうだ。

そして、そんなハイレベル世代において気を吐いたのが「京都2歳S組」。昨年までは前週の東スポ杯に圧される形で、重賞昇格以降は1頭も翌春のクラシック好走馬を出していない“逆・出世レース”だったが、ついにその汚名を返上した。出走した14頭はその後ダービーまでで【9-8-6-18】単回収率295%、複回収率176%。シンエンペラー、ダノンデサイル、コスモキュランダ、ディスペランツァが重賞~GⅠで暴れまわった。

東スポ杯組が振るわず、京都2歳S組が覇権を獲ったクラシック。皐月賞で差し届かなかった馬が、ダービーも差し届かなかったクラシック。時代は巡り、のらりくらりと形を変える。競馬はかくも難しく、やはり面白い。

来年こそは絶対に当てる。……と意気込み、鬼のひと笑いをさらったところで今回はおひらきにしよう。

ダノンデサイル号、関係者のみなさま、おめでとうございました。

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