「ダート三冠」元年を終えて 雑感

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「第1回」ダート三冠が閉幕

2024年から羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートクラシックのいわゆる「ダート三冠」が新設された。

“新設”というとゼロから1ができたような響きだが、実際には昨年まで南関東3歳牡馬クラシックとして施行されていた2つのSⅠ競走(と雲取賞と京浜盃)を叩き潰して名称を交流重賞に流用し、ジャパンダートダービーを秋に移動させたものである。

個人的には一貫してこの変更に反対の立場だった。交流だと分が悪いレベルの南関東所属馬が稼ぎどころを失うこと、そして地方3歳の頂上決戦として極めて魅力的だった「旧・東京ダービー」がなくなることの2点が主な理由である。

そんなイチ南関野郎の危惧を尻目に、ダート三冠はつつがなく行われた。羽田盃は白毛のアマンテビアンコ、東京ダービーは粗削りの大器ラムジェット、そしてジャパンダートクラシックは底知れぬ怪物フォーエバーヤングの勝利で幕を閉じた。

「中途半端」が一番つまらない

春は正直言って、面白くなかった。

サントノーレとダテノショウグンの故障離脱は路線改革とは全く独立のやむを得ない事象とはいえ、羽田盃はわずか8頭立て(JRA4頭)。2着アンモシエラと3着フロインフォッサルの間は実に8馬身も離れた。

東京ダービーは16頭と数こそ揃ったが、アマンテビアンコを欠いたメンバー構成。3番人気アンモシエラ単勝4.8倍、4番人気ハビレ19.1倍のオッズが雄弁で、事実上チャンスがある馬はごく限られていた。総大将のフォーエバーヤングは海外へ行き、伏竜Sを勝ったテーオーパスワードもケンタッキーダービーへ。ラムジェットのおかげで何とか格好はついたが、あのレースが本当の意味で「ダービー」に相応しいと思う人は多くないのではないか。

なにより「南関クラシック」がなかったことがむなしい。もし旧・東京ダービーがあれば、主役2頭の不在が惜しまれつつも、フロインフォッサル、マコトロクサノホコ、シシュフォスらを中心とした混戦模様で予想しがいのある一戦になっていたことだろう。高額賞金を狙い、他地区から南関東へ移籍してくる3歳馬ももっといたと思う。東京ダービー、そして後述するジャパンダートクラシックどちらも地方最先着は高知のシンメデージーだった。単にシンメデージーが強かっただけ……ともいえるが、好素材があえて南関所属を選ばなくなったという構造的な問題を感じなくもない。それも当然、3歳春に南関に所属する番組的なメリットがあまりない。南関にオイシイ番組がない。実際、アムクラージュやエドノバンザイなど、南関東所属ながら他地区遠征を選んだ馬もいたくらいだ。

一方、ジャパンダートクラシックは実に熱の高い一戦になった。

海外で重賞を勝ってきたフォーエバーヤングの凱旋兼壮行レースでもあり、ラムジェットやサンライズジパング、ミッキーファイトなどそれぞれにダート重賞を勝ってきた実力馬が一堂に会するお祭り的なメンバー構成になった。JRAの出走枠が「7」あったことも盛り上がりに寄与した。もしこれが「4」で、春のような優先出走権方式(たとえば不来方賞の1着と東京ダービーの1-2着、レパードSの1着)だったら、サンライズジパング、ラムジェット、サトノエピック、ミッキーファイトvs地方馬という構図だった。他意はないが、そうでなくてよかったと思う。

結局何が言いたいかというと「中途半端が一番つまらない」だ。

そもそも興趣溢れる競走とは何か。色々な観点があるとは思うが、わたしが思うに、まず「実力の拮抗」が大きなウェイトを占める。それは競馬が予想を伴う娯楽だからという側面もあるが、予想を伴わなくても、スポーツ一般論として実力が大きく乖離した試合は面白みに欠ける。例えばわたしが井上尚弥とボクシングで戦っても、一瞬でKOされるだけで全く見るに値しない。他方、技術的に未熟な少年野球の試合でも1点を争う接戦なら手に汗握って観戦できる。

中央馬と地方馬には現実問題として力量差がある。もちろん地方にも一握り、JRA勢と伍する大器はいる。しかしそれは一握り。グループで見たとき、特に中距離カテゴリではレベル差がある。これはまず認めなければならない。

であるなら「JRA勢4頭」という制限は実に中途半端だ。「チャンスのある4~5頭」と「それ以外」に分かれてしまう。今年の羽田盃と東京ダービーが、旧・羽田盃、旧・東京ダービー、そしてジャパンダートクラシックのどれと比べても興趣に欠けたのは、出走馬間の実力の乖離が大きかったからだと思う。

そしてこの「JRA勢4頭」の制約が本来意図したであろう「地方馬の利益を守る」という目的につながったかも甚だ疑わしい。結局、三冠通じて馬券に絡んだ地方馬はフロインフォッサル(羽田盃3着)のみ。フロインフォッサルが得た賞金は1000万円(に加えて地方馬最先着ボーナス1000万円)だから、旧・羽田盃の1着賞金3500万円に比べると大損である。

この改革で得をしたのはダート馬を抱えている中央の馬主&調教師と、馬券が売れたTCKだけのように感じる。割を食ったのは南関東競馬の関係者。そして毎年クラシックを楽しみにしていたコアな南関ファンだ。

ぼくが考えたさいきょうの「ダート三冠」

文句が多くなったので、最後に“ぼくが考えたさいきょうの「ダート三冠」”をテーマに、好き勝手に書いていこうと思う。これはX、、、ツイッターでもプチ議論になっていたので、一部他の方のアイデアと被ることを断っておきます。

まず中途半端な状態は解消したい。3歳ダート馬の頂点を決めるレースをやるなら、恩着せがましい「地方への配慮」による制限はなくしてしまえ。羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートクラシックは中央GⅠと同じように、賞金順(地方馬出走枠◯頭)で出走可能とする。優先出走権が発生する重賞も同様の出走順でいい。ちなみに現行のルールだとUAEダービー→東京ダービーのローテーションが事実上採れない(※優先出走権を持つ馬が回避しないと)という問題も生じているが、それもついでにクリアされる。

一方で、南関は南関の頂点を争う競走体系を用意しよう。戸塚記念を三冠目とした「新・南関牡馬クラシック」の創設だ。まあ皮肉なことに今年は東京湾C→黒潮盃→戸塚記念がそれに近い働きをしてしまったが……。4月に浦和ダ2000mのSⅠを新設(名前は「浦和皐月賞」?)、6月に東京湾Cを時期変更(SⅠ・船橋ダ1800m。名前も「南関東優駿」とかにしたい)、9月に戸塚記念(SⅠ・川崎ダ2100m)。そこからエース格はジャパンダートクラシックへ転戦するイメージでどうだろう?

……まあそんなことを書いたところで主催者に届くわけもなく、単なるイチファンの自己満足にすぎないのだが。

とにかく初年度は大いに(大井に?)不満も残るダート三冠だったが、ジャパンダートクラシックが秋に移動したことだけは大ファインプレー。春だと芝挑戦組、海外組もいるわけで、ここまでの超ハイレベル戦にはならない。日本のダート競馬にとって非常に大事な番組が誕生したと思う。課題は春二冠と、南関東3歳牡馬への冷遇をどうするかにつきる。より興趣溢れる競走体系を実現するために、来年以降どのような変更がなされていくか注目である。

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