「9月中山加速ラップ詐欺」問題

「9月中山加速ラップ詐欺」とは

ラスト1Fのタイムがその前の1Fより速くなるラップ構成。俗に「加速ラップ」と呼ばれている。大逃げ等による例外もあるが、基本的には「勝ち馬が脚を余しながらゴールしたこと」を示し、強い馬を発見する手がかりとして評価されている。

ところが2023年9月中山である「異変」が起きた。この加速ラップが極端に頻発したのである。たしかに中山の芝コースは直線が310mしかなく、残り400~200mには半分ほどコーナー部を含む。加速ラップが比較的出やすい形状ではあるだろう。ただ、それにしても多かった。風の問題なのか、計測になにか普段と違うところがあったのか、原理は不明である。

果たしてあれだけ安売りされた加速ラップに価値があったのか。「加速ラップを出しているから強いはずだ」という感覚で馬券を買うとお金を失うことになるのでは? これを「9月中山加速ラップ詐欺」問題と名付けて、諸々の検証を加えていきたいと思う。

昨年9月の加速ラップ出現状況

まずは昨年9月(※正確には10月1日まで)中山開催における、加速ラップ出現の状況をまとめてみた。

施行された平地104レースのうち、加速ラップは28戦で出現。特に芝レースに関しては54レース中21レースが加速ラップだった。出現率はなんと38.9%。この時点でだいぶ価値が疑わしくなってきた。

特に圧巻だったのはセントライト記念が行われた9月16~18日の週芝17レースのうち、13レースが加速ラップ。出現率は76.5%。こうなるともはや「すごいこと」でもなんでもなく、むしろ減速していたレースの方が珍しい

冒頭では「9月中山」全体をターゲットに出発したが、どうも怪しいのは「9月16~18日の芝レース」のラップ(計測の問題か、直線追い風などの影響かは不明)ということになった。

この週に加速ラップをマークした馬を書き出してみる。

ベレザニーニャ (ラスト11.6-11.3)
ソワドリヨン (12.4-11.3)
レイデラルース (12.3-12.2)
マリンバンカー (11.4-11.3)
シュシュトディエス (11.3-10.8)
スパイラルノヴァ (11.6-11.5)
ピンクセイラー (12.0-11.3)
ミエノブラボー (12.0-11.3)
サトノオラシオン (11.4-11.3)
ショーマンフリート (11.6-10.9)
トロヴァトーレ (11.4-11.2)
フレーヴァード (11.7-11.3)
レーベンスティール (11.7-11.0)

ショーマンフリートなどはモーリスのダービー卿CT(11.7-10.9)みたいな数字なのだが、これだけ他レースでも頻発していると、信憑性のほどはかなり怪しい。

しかしまあ、可能性としては「この週の中山だけ大物がめちゃくちゃ出走していた」というのもゼロではない。では、この13頭のその後を見てみよう。

各馬の次走成績

ベレザニーニャ (次走)未出走
ソワドリヨン 未出走
レイデラルース 4番人気3着
マリンバンカー 7番人気9着
シュシュトディエス 10番人気9着
スパイラルノヴァ 11番人気13着
ピンクセイラー 4番人気9着
ミエノブラボー 8番人気8着
サトノオラシオン 1番人気4着
ショーマンフリート 2番人気5着
トロヴァトーレ 1番人気1着
フレーヴァード 2番人気4着
レーベンスティール 1番人気8着

成績【1-0-1-10】勝率8.3%、連対率8.3%、複勝率16.7%
単勝回収率15% 複勝回収率30%

レーベンスティールの香港ヴァーズに関しては現地でスクミが出たという情報もあったし、必ずしも力負けとは言えないもの。ただ、一般論としてこの週の加速ラップがほぼ価値を持たないという点は今後も考慮する必要がありそうだ。

では、「この週以外の9月中山」で加速ラップを出した馬たちは次走どうなったか。これも比較対象として集計しよう。

該当馬
ファロロジー (次走)9番人気10着
キャットファイト 4番人気10着
ソウルラッシュ 3番人気2着
シックスペンス 1番人気1着
ロンドンアームズ 未出走
キョウエイブリッサ 未出走
モリアーナ 7番人気5着
フォルラニーニ 1番人気8着
コイヌール 7番人気8着
グラシリティ 未出走

成績【1-1-0-5】勝率14.3%、連対率28.6%、複勝率28.6%
単勝回収率45% 複勝回収率52%

さっきの週ほど悪くはないが、こちらも積極的な買い材料になるほどではない。やはり「9月中山加速ラップ」はかなりマユツバだと思ってかかった方が賢明だろう。

まとめ

まとめると、

1.「9月中山で加速ラップを出した」の価値はないに等しい。むしろ回収率的には消しが正解か
2.特に「16~18日の芝レース」で出たものは怪しい。が、それ以外も買い材料にはならない

この2点が結論になる。

ちなみに、12月中山では芝レースが47行われ、加速ラップはわずか4だった。出現率8.5%。おそらくはこのくらいが正常値なのではなかろうか。

該当馬はレザンノワール、クリスマスパレード、ニュージーズ、そしてレガレイラ。レザンノワールは既に次走で敗れてしまったが、個人的には広いコースで巻き返しがあると思っている馬。残る3頭とあわせて馬券的に追いかけてみたい。

鈴木ユウヤ

東大卒競馬ライター。中央競馬、南関東競馬を中心に情報発信している。単勝&ワイド。攻めて勝つ。

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