はじめに
2025年のGⅠ戦線が開幕すると幸運にもフェブラリーS、高松宮記念、大阪杯がトントン拍子に当たり、それなりに配当もついた。そんなことをXへ投稿したところ、どうやらアルゴリズムに気に入られたらしく、瞬く間に拡散されてフォロワー数も爆増。確か1週間余りで1700→4300くらいに増えた。実にありがたいことです。
それ自体は本当に純度100%でありがたいのだが、しかし根が小心者なものだから、多くの人に見られていると思うと何を書くにも細心の注意をという気持ちになってくる。放言は控えねばと思うし、以前たびたび書いていた雑記の類を書くのがなんとなく億劫になる。無遠慮さを失いつつある。
ただまあ予想と回顧とデータをルーティーンで垂れ流すだけでは芸がないと思うし、それは「予想家」としてはいざしらず「競馬ライター」あるいは「ブロガー」を自認するわたしにとって好ましい状態と言えない。もっとフットワーク軽く、色んなトピックにいっちょかみしていかなければならない。
というわけで今回は上半期に競馬界で起きたこと、SNSで話題になった事件、どうでもいい身の上話などをオムニバス形式で4本書きます。以下すべて個人の感想と妄想です。あまり真剣に読まないようにお願いします。
三冠牝馬の死
4月27日、香港のシャティン競馬場で行われたGⅠ・クイーンエリザベス2世C。日本馬は3頭が出走し、タスティエーラとプログノーシスが見事にワンツーフィニッシュを決めた。しかしその一方、リバティアイランドが直線で故障を発生し、そのまま安楽死の措置がとられこの世を去った。
競馬をやっているとどうしてもこういう事故は起こる。ただ、これほどのビッグネームがレース中の故障で亡くなるのは、日本馬だとサイレンススズカ以来の出来事だったのではないか。謹んで哀悼を意を表する。
彼女の死後、全国の競馬場に献花台と記帳台が設置された。報道によると5万7000の記帳、1万の献花が寄せられたという。思うに、この世に尊くない生命はないが、特別に尊い生命というのは存在する。それは競走馬に限らず人間も同じ。死に際して誰からどう弔われるかは、生前成してきたものの答え合わせと言えるかもしれない。
少し話は変わるが、当時Xで「サンデーRのクソローテのせいで死んだ」などと“使いすぎ批判”が起きたのは驚きだった。わたしも高々13年程度の競馬歴。古参ぶるわけではないが、4歳春に1戦、4歳秋は2戦、5歳春はドバイから中2週でシーズン2戦目……。このローテで「使いすぎ」という言葉が出ること自体、ひと昔前の感覚からすると信じがたい。海外の転戦で状態を維持する難しさは当然あるだろうが、それは脚部の負担とは別の話だろう。一般論としてJRA以上にメディカルチェックが厳しい香港競馬。そこで異常が認められず出走が叶っているのだから、予見不可能な事故だったと割り切るほかないと思う。
日本の国民性だろうか。我々は「誰も悪くない不幸」を心理的に受け入れにくいのかもしれない。責任の所在が宙に浮くことに気持ち悪さを覚える、ハラキリ、エンコヅメ文化とでも言うべきか。改善に向けた建設的議論と、結果責任の追及(あるいは糾弾)とは、形が似ていて違うもの。この二つを混同してはならないと改めて思う。
あと、こういう事故が出ると必ず「競馬廃止論」を唱える人間が出てくる。反論しておくと、それは「優しさ」や「動物愛護」ではなく「反出生主義」だろうと思う。安楽死やムチで叩かれるのが不幸だ、だから廃止せよ(=馬を生産するな)という議論は「不幸に生きるくらいならそもそも生まれて来なければいい」という考え方だ。それ自体はひとつのイデオロギーとして成立する(し、一理ある)が、それを言うなら「死の不幸」と表裏一体にある「生の幸せ」についても議論しなければフェアでないと思う。
確かに彼らは競走という労働を、望むか望まざるかにかかわらず強いられる。しかしその対価として食住を提供され、愛情を注がれるサラブレッドが果たして「生まれて来なければよかったほど不幸な存在」なのか。わたしは全くそう思わないが、こればかりは馬に聞いてみなければ分からない。
競馬カードゲーム『フォースオブザホース』
実在競走馬をモチーフにしたカードゲーム「フォースオブザホース」をご存知だろうか。
4月頃に一度試遊して、その感想をブログに書こうと思っていたのだが、なんとなくタイミングを逸してしまっていた。そのままスルーしてもよかったが、雑記ついでに宿題として片付けたい。
まずカードについて。「馬カード」は実在の日本馬が登場し、おそらく写真を基にしたイラスト(※騎手は乗っていない)がデザインされている。それぞれにパラメータと固有の効果(フォース能力)が設定されている。なおラインナップを見るにイクイノックス、リスグラシュー、サトノダイヤモンド、マカヒキ、ブレイディヴェーグ……など、ノーザンファーム生産馬とノーザン系クラブ馬ばかり。そこだけ許諾をとっているのだろうか。
ほか、フォースカード(ポケモンで言うエネルギーみたいなやつ)とサポートカード(遊戯王で言う魔法カードみたいなやつ)でデッキが形成されている。
基本的な進行としては、お互いが馬カードやサポートカードを駆使して「走破」を行い(あるいは相手の走破を「ガード」して)、走破数だけ山札を引いていく。自分の山札を先に引き切ったら勝利となる。
なかなか面白かったのだが、いくつか気になる点もあった。
まずゲームの性質上、「ドローソース」の概念がほぼない。基本的に手札は使った分だけ減るばかり。増える機会はターン開始時のドローで1枚、走破成功時の1枚だけ(※走破成功で山札から2枚以上引けても、引いた枚数-1枚を捨てなければならない。「強欲な壺」ではなく「天使の施し」)。そのため手札が枯渇しやすく、両者とも何もせずにただパスしあう時間帯が生じる。
次に「走破」で先にゴール(山札をゼロに)することを目指すゲームでありながら、「走破」の価値が低く感じた。「走破」にはコストとして「フォース」も必要だが、「ガード」は馬カード単体でできる。走破が高確率で決まりそうな状況、あるいは走破向きの能力を持つ馬を除き、自ら走破するメリットが小さい。ガード値4でガード成功時ドロー効果がある『マカヒキ』に、ガード値を上げるサポートカード『ヘルメット』を使用する戦法が強い。
まあゲームの戦略については他にも色々あるが、このあたりで割愛する。あとプレイング自体に「競馬ゲーム」をやっている感はない。各馬に得意距離や競馬場などが定められているので、カードプールが増えてきたらデッキを組む際の戦略性はあると思う(次の試合は中山芝2000mだから、中山が得意な馬や中距離馬を多く入れて……など)。
そして、ゲームの面白さとは関係のない問題として、大人になってしまった僕らは対戦相手と対戦機会を確保するのが難しい。近所に「決闘者」がたくさん住んでいて、学校終わりに好きなだけデュエルができたあの頃とは違う。寂しい話だ。
フォースオブザホース、気になった方はぜひ一度遊んでみては。
あの騎手は何故GⅠを勝てないのか
「上半期の中央競馬ワースト騎乗は何か?」と聞かれると回答が難しい。平場まで探せば、おそらくわたしが気付いていない「隠れたクソ騎乗」もきっとたくさんあるからだ。
しかし「上半期、ネットで最も叩かれた騎乗は?」と言えば、鮫島克駿騎手のジャスティンパレス天皇賞(春)で間違いないだろう。GⅠの上位人気でああいう派手なやらかしをすると、さすがに反響も大きい。
わたしもあの騎乗を擁護する気はなく、レースがバリバリに締まった流れを残り1200mからマクって残れる馬なんていないよ、の一言に尽きる。武豊騎手にもテレビ番組で苦言を呈され、ブリンカー効果もあるとはいえ宝塚記念で3着に巻き返したのがひとつの「答え」と言っていい。
あと、春天ほど話題になっていないが大阪杯もイマイチだった。レースの前半と後半で人格が変わったかと思った。ジャスティンパレスにとって忙しい高速馬場の阪神芝2000mで、スタートからバシバシ追って出していき、ベラジオオペラの背後で内ラチ沿いという「ほぼベスト」なポジションを取り切った。ここまでは間違いなく好騎乗だった。あとはベラジオオペラについていくだけでよかった。ところが、そうまでして確保した好位置を何故か放棄し、3角からトラックバイアスに逆行する外々回し。もったいないの極みだ。
誤解なきように書くと、わたしは未来の予想の種として「騎乗のよしあし」は論じるが、それはレース単体の評価にすぎない。この2戦はよくない騎乗だったと思うが、だから鮫島騎手がヘタとは言わない。たとえば大谷翔平だってノーヒットで全打席三振の試合があれば、今日はダメだったねと評価されるだろう。それと同じこと。個別具体の騎乗のよしあしだけで、その騎手の値打ちを断ずることはしない。
話を戻す。鮫島騎手は毎年のようにリーディング上位にいながら、まだGⅠを勝っていない騎手として知られている。わたしのような外野の雑魚の分際で大変おこがましいが「なぜ彼がGⅠを勝てないのか」を考えてみよう。
そもそもの話、鮫島騎手のJRAGⅠ成績は【0-2-2-42】。そう。「たった46回」しかGⅠに乗っていないのだ。うち5番人気以内は6回で【0-0-2-4】、単勝オッズ10倍未満は【0-0-2-3】。1番人気には騎乗なし、2番人気は23年宝塚記念ジャスティンパレスの1回だけで、この時はイクイノックスが相手だった。別にこれまで決定的なチャンスを逃してきたわけではない。
にもかかわらず、本人が「GⅠを勝てていない」と各所で発言し、自分にマイナスの暗示をかけてしまっている。暗示だけならいいが、自らそう発信することで関係者から「ああ鮫島は大舞台に弱いんだ」と思われたらどうか。回ってくる馬も回ってこない。先日の宝塚記念でローシャムパークの代打に選ばれなかったことにも、そういう要素がないとは言い切れない。
たとえば岩田望来騎手はロータスランドで初めて重賞を勝つまで98戦かかった。GⅠも阪神JFのアルマヴェローチェが61回目のチャレンジだった。繰り返すが、鮫島騎手はまだ46戦だ。泣き言を言うには早かろう。「GⅠを勝てない」などと自分で言うのは100連敗くらいするか、1番人気を何度か飛ばしてからでいい。
私見だが(というか、この記事全部私見なのだが)鮫島騎手は「よく考えて乗るジョッキー」だとは思う。むしろ「考えすぎる」きらいがある。ジャスティンパレスの春二戦も漫然と乗って負けたわけではない。その真逆で、過去の負け方を受けて「脚を余さずに乗る」ことに固執したがゆえの騎乗だった。
こちらも私見だが(というか以下略)、GⅠを多く勝つジョッキーには「動かずにじっとしていられる」タイプが多い。
JRAGⅠ・22勝のアンカツこと安藤勝己氏がよく「勝ちたいと思ったらダメ」と言っていた。大レースになるほどペースや仕掛けは前のめりになりやすく「待てる騎手」がハマるもの。武豊、ルメールの2大巨頭は心臓剛毛マンかというくらいじっくりコトコト煮込むし、池添騎手も馬の力を信じてシンプルに組み立てるスタイル。マクリのイメージが強いミルコ騎手も、実際のところ大レースを動いて勝ったのはヴィクトワールピサのドバイWCとスワーヴリチャードの大阪杯くらいだ。
「勝てないと思い込まないこと」「勝ちたいと思いすぎないこと」「もっと数を乗ること」。そのあたりが大事MANブラザーズバンドなのではないか。重ねて書くが、まだまだGⅠコンプレックスを感じるには時期尚早だ。頑張ってください。
馬券捏造に思う
今日も東から太陽が昇り、西へと沈み、悪徳予想家は馬券を捏造する。景表法なり詐欺なり、悪事であるのは間違いないが、残念ながらそれが日常茶飯事となっている現実がある。
先般も某有名競馬YouTuberが炎上したそうだ。その件は捏造ではなく「複数パターンを購入して当たったものだけ見せていた」疑惑らしいが、仮にそれが事実で、不的中の馬券を闇に葬ることで回収率を改ざんしていたのだとすれば、視聴者にとって捏造と本質的な違いはないだろう。それがYouTubeの再生回数を増やすためだけならまだしも、そこにメンバーシップやら予想の販売やらという有料バックエンドが付帯するのであれば、到底許されない行為と言わざるを得ない。
常々思っているし度々言っているが、馬券という競技は難しい。短期的に勝つのもそこそこ困難だが、長期的に勝ち続けるのは異次元に難易度が高い。
明確な根拠のある数字ではないが「年間でプラス収支になる人は3%」と言われていて、肌感覚的にまあまあ正しそうだ。では「実際は勝ってないのに回収率や馬券を捏造する予想家」は何%いるだろうか。これも根拠はないが、仮に10%としよう。
この仮定に基づくと「馬券で年間プラスです!」とのたまう予想家が13人いるとき、本当の勝ち組はその中の3人だ。言い方を変えれば「馬券で勝っている」と謳う人間があなたの目の前に現れたとき、ソイツが単なる捏造野郎である確率は13分の10で76.9%。明確なエビデンスがない限り、ほとんど信用できないレベルだ。
ここから話が逸れる。馬券は払戻率が約75~80%だから、本当は回収率80%を分岐点として「上手い組」と「ヘタな組」に分かれる。回収率90%台でも結構な上位層だが、やはり金銭的な損益分岐点にあたる「回収率100%」が大きな意味を持ちすぎる。「予想家」にとって100%を超えていなければ成績を公開することが憚られ、それ以外の方法による印象操作を余儀なくされる。それもなんだか窮屈で不健全だな、とは思う。90%でも「上位者」として堂々と公表できる風潮ができれば、もう少し界隈としての透明性は増すような気がする。
「馬券」を「大規模なプレイ人口を抱える対戦型オンラインゲーム」と解釈したとき、わたしはその「ゲーム実況者」でありたいと思う。もちろん身命を賭して回収率100%超えを目指す(遠くない将来に達成する自信もある)が、他方「俺の予想でお前らを勝たせてやるぜ」などと言う気はない。毎日毎日飽きもせず、ひとりの馬券野郎が勝ったり負けたり、調子に乗ったり落ち込んだりしているサマを楽しんでもらえたらそれでいい。
自分で言うのもなんだが、このブログはずいぶん正々堂々とやっている。予想は無料で前日夜に先出し、買い目も1点で明瞭。アーカイブも全部残るからその気になれば均等買いの収支は調べられる。
ただし一応明記しておくと、実際に馬券を買う時は購入金額にメリハリをつけている。ここは以前書いた「4分類法」の考え方。馬場やオッズ未確定の時点で予想する以上、レース時点での前提変化に対処する必要はある。まあこれは今回の本筋ではないので、このあたりでやめておこう。
なんだか話が散らかってきた。要するに「捏造野郎許すまじ」「悪徳予想家にはご注意を。馬券で継続的に勝てる人はほとんどいません」「これからも当ブログをよろしくお願いします」という感じですかね。ちょっと画像なしで長文になりすぎた。お粗末さまでした。