はじめに
1月7日に2024年のJRA賞が発表され、ドウデュースが年度代表馬に輝いた。
今年は大きな波乱もなく、比較的平和なタイムラインが形成されたように思うが、例年このJRA賞が何らかの論争の火種となる。つまり「◯◯の方が相応しい!」「▲▲に投票した記者はおかしい」という意見が必ずといっていいほど出てくるのだ。
昨年も書いた通り、わたしは「おのおのが自分の尺度で、好き勝手に好きな馬を表彰し、労い、称えればそれでいいんじゃないか?」というスタンスをとっている。好きな馬、応援した馬、強いと思った馬、馬券に貢献してくれた馬……それぞれにとっての「年度代表馬」がきっといると思う。
ということで今年も「超私的・2024年JRA賞授賞式」を開催します。独断と偏見と私情でJRA賞の各部門を表彰し、その馬たちに簡単なコメントを添えていく。
ルールは3つ。
1.実際のJRA賞で選出されなかった馬から選ぶ
(※今年は特別賞のフォーエバーヤングも対象外)
2.実績にとらわれず、主観的な理由や私情を選考基準に含める
3.地方・海外での活躍も考慮するが、地方馬は対象外
なお昨年は個人的に障害レースをほとんど追えておらず、最優秀障害馬の部門はすみませんが割愛です。
それでは各部門受賞馬の発表に移ります。
最優秀2歳牡馬
ジョバンニ(栗東・杉山晴紀 4戦1勝)
7月7日の新馬戦はラスト2F11.6-11.2の加速ラップでデビュー勝ち。小倉芝1800m2歳新馬でのラスト1F11.2以下はクロノジェネシス、ピースオブエイト、ドウデュースに次ぐ4例目だった。
この内容を絶賛して「素質馬ファイル」にて取り上げ、野路菊Sと京都2歳Sでは本命視したが、どちらもスローペースを後手に回って差し届かずの歯がゆい競馬で2着に敗れた。そこで諦めてしまったのが大反省で、ホープフルSでは6番人気2着と好走。見込んだ馬を追い続ける大事さを改めて痛感させられた。
……と、わたしにとっては苦い思い出しかないのだが、友人(※以前このブログに寄稿してくれた山村という男)がホープフルSでクロワデュノールとジョバンニのワイドをしこたま買って全てを取り戻し、逆転サヨナラで年間プラス収支を達成していた。山村おめでとう選出。
最優秀2歳牝馬
ミリアッドラヴ(栗東・新谷功一 3戦3勝)
デビュー戦は中京ダ1400mの2歳新馬史上最速タイムとなる1:23.9で圧勝。続くエーデルワイス賞も危なげなく勝ち、全日本2歳優駿ではリエノテソーロ以来8年ぶりの牝馬Vを達成した。
ちなみに馬主の白石氏は銀座のクラブのオーナーママとのこと。12月時点でインスタフォロワー数11万超、馬主としては2頭目の所有馬がJpnⅠ制覇だそうです。すごいですね。
最優秀3歳牡馬
ジャスティンミラノ(栗東・友道康夫 3戦2勝)
共同通信杯でラスト10.9-10.8という異次元のラップを踏み、上がり32.6秒でジャンタルマンタルらを完封した大器。ただし新馬戦が1000m通過63.1秒、共同通信杯が同62.7秒とスローペースだったため、テンから流れる皐月賞は危険な人気馬になるだろうと見ていた。
ところがフタを開けてみれば前半1000m57.5秒のハイペースを先行して差し切り。非凡な才能を示し、日本ダービーもやや距離が長い感じながら2着と格好をつけた。
天皇賞(秋)を目指す過程で残念ながら故障引退となってしまったが、無事なら2000m戦線で日本を代表する馬になっていたのではないか。それだけのポテンシャルがあったと思っている。種牡馬としての活躍に期待したい。
最優秀3歳牝馬
レガレイラ(美浦・木村哲也 5戦1勝)
勝負事というのは往々にして実力だけでは決まらず、多かれ少なかれ「運」の要素が絡むものだ。レガレイラの2024年シーズンはその「運」がなかなか巡ってこなかった。
主戦のルメール騎手がドバイで落馬事故に遭い、今年初戦の皐月賞はテン乗りの北村宏司騎手。ほぼ最後方から上がり最速33.9秒で追い込むも前が遠すぎた。続く日本ダービーではルメール騎手が戻り、本来絶好枠であるはずの1枠2番をゲット。しかしメイショウタバルが取り消すとレースはドスロー。内の後方で身動きがとれず、完全に脚を余して5着に敗れた。
ローズSはまたも最後方から上がり33.1秒の豪脚を見せるも展開が向かず。相手が手薄で“タダ貰い”かと思われたエリザベス女王杯は直線で他馬激しく接触する不利もあって5着に終わった。
「レガレイラはピークアウトした」という謎のアホ評論も受けながら苦しみ抜いたシーズン。その最後に出走したグランプリでは4枠8番の好枠をゲットし、最大の強敵・ドウデュースが出走回避、レースではこれまでと戦法を変えて先行した戸崎騎手の好騎乗……と、これまでの不運が揺り戻すかのように全てが噛み合い、64年ぶりの3歳牝馬による有馬記念制覇を成し遂げた。大団円よかったね選出。
最優秀4歳以上牡馬
ドゥレッツァ(美浦・尾関知人 3戦0勝)
2024年の中央競馬で最も脳汁が出た場面が「ドスローの向正面で坂井瑠星シンエンペラーからジワリとハナを奪うビュイック」だった。どの騎手も標的は後方にいるドウデュース。ペースを上げずに大本命馬を苦しめつつ、自分だけは有利なポジションでコトを進めたい。そんな強欲なミッションを完璧に遂行したビュイックに花丸を差し上げたい。
馬券的に大勝したという私情もあるが、騎手たちの駆け引き、そしてそれらの策を全て一蹴するドウデュースの脚力など、痺れる要素が多く何十回も観たレース。その立役者のひとりとして表彰したい。
最優秀4歳以上牝馬
ナミュール(栗東・高野友和 4戦0勝)
若い頃は使い減りする華奢な牝馬だったが、古馬になって見違えるように強くたくましくなった。年初のドバイターフで僅差2着、帰国後ヴィクトリアマイルから中2週のタフなローテで臨んだ安田記念でも香港の絶対王者・ロマンチックウォリアーに食らいついて2着に入った。
秋は残念ながらマイルCSで歩様に異常をきたして大敗。そのまま繁殖入りとなった。年間未勝利ながら牡馬混合の格高GⅠで2着2回の実績を評価し、これまでの競走生活に対する労いの意味も込めて選出。お疲れ様でした。いい仔を産んでください。
最優秀マイラー
エルトンバローズ(栗東・杉山晴紀 6戦0勝)
2024年の中央競馬を象徴するトピックのひとつに「阪神競馬場の休止」があった。阪神で行われるはずのマイル重賞が京都で代替されることとなり、例年以上に「東京マイルと京都マイルと阪神マイルはそれぞれどう違うのか?」という論点を取り上げることが多かった。
中でも会心だったのがマイルCSの予想。「安田記念と京都開催のマイルCSは非直結で、東京ではキレ負けするような中距離志向の馬が京都マイルでは走れる」と述べて◎エルトンバローズ、◯ソウルラッシュと打ったところ見事にワンツー決着。こういう典型的な戦績になってくれる馬は大好き。これからもよろしくね選出。
最優秀スプリンター
ナムラクレア(栗東・長谷川浩大 5戦1勝)
3歳秋からずっと現役トップ格の走りをしていながら、どうもGⅠに手が届かない。今年も高松宮記念でスローの前残りに猛然と追い込むもアタマ差2着、スプリンターズSでは0.1秒差の3着。最後に阪神Cでなんとか1勝を挙げた。年間通じて最も安定感を放ったスプリンターはこの馬だろう。
スタートから積極的に位置を取るより序盤じっくり溜めを作った方がいい結果を出せるようで、国内に1400mのGⅠがない以上、年齢的にも次の高松宮記念が最大にして最後のチャンスだと思う。今年こそGⅠ獲ろうね選出。
最優秀ダートホース
ウィルソンテソーロ(栗東・小手川準→美浦・高木登 7戦1勝)
ひと言で言えばよく走った。フェブラリーSのハイペース2番手先行は騎乗ミスだと未だに思うが、続くドバイWC4着、以降②②①②②着。常に最前線でタフに走り続け7戦を消化、コースも距離も戦法も自由自在に対応してみせた。最後の2戦はレモンポップ、フォーエバーヤングという新旧のチャンピオンに敗れたが、この馬がいるだけで層がぐっと厚くなり、レースとしての魅力も高めてくれる。
個人的トピックとしてJBC4競走完全的中という嬉しい出来事があり、その締めくくりがウィルソンテソーロのJBCクラシック。佐賀出身の川田騎手が地元開催のJpnⅠを勝ち、涙したインタビューも印象的だった。
JBCスプリントを勝ったタガノビューティーと接戦の末、年間通じての安定感を評価して選出。
年度代表馬
ベラジオオペラ(栗東・上村洋行 5戦1勝)
ルールでドウデュースが対象外のため選考は悩ましかったが、古馬王道にしっかり参加して競馬を盛り上げた功績を重視。大阪杯、宝塚記念、天皇賞(秋)、有馬記念の4戦に出走したベラジオオペラを年度代表馬に選出する。
距離は1800~2500mまで、高速馬場も道悪もこなす稀有なオールラウンダー。大阪杯は2番手につけて押し切る器用な立ち回りで勝利し、馬券も獲らせてもらった。和生騎手曰く「僕のやりたいレースプランを叶えてくれる馬」。今年も王道路線を元気に走り切ってほしい。夏場を健康に過ごそう。
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※惜しくも選外だった馬たち
シャフリヤール(ドバイSC2着、BCターフ3着、有馬記念2着と6歳でも衰えを感じさせない力走)
アーバンシック(クラシック三冠&有馬記念皆勤の実績、菊花賞V)
ステレンボッシュ(牝馬三冠全てで馬券圏内&香港ヴァーズ3着)
シンエンペラー(3歳でジャパンC2着。愛チャンピオンでも3着と善戦)
ロマンチックウォリアー(海外馬ながら安田記念制覇。「日本馬海外GⅠ未勝利」の象徴ともいえる難敵)