「良血馬は過剰人気」なのか? 中央競馬10世代分のデータから見えた事実

「良血=過剰人気」という通説

「良血馬は話題先行で過剰人気になる」

というフレーズを目にしたことがないだろうか。確かにテレビや新聞で「GⅠ馬ナニガシの全弟!」とか「セレクトセール3億円!」とか取り上げられていればつい注意を惹かれてしまう。本来の実力より余計に馬券が買われそうな感じはする。

かつて「三冠馬の全弟」という触れ込みでデビューした某馬が新馬戦で単勝1倍台の断然人気に推され、大敗を喫したことがあった。当時競馬を観始めたばかりのわたしは随分残酷な世界だと感じたものだ。そういえば、ウインズで「名前がカッコいい馬は人気するから、玄人はマイネルとシゲルを買うもんだ」と講釈を垂れるオッサンに出くわしたこともある。

馬名が人気に影響するかは一旦置いといて、今回はまず「良血馬=過剰人気」という通説が本当に合っているのか、データを洗い出してみた。

「GⅠ馬の弟・妹」は過剰人気なのか?

さて「良血馬」といっても定義がなかなか難しい。まずは「GⅠ馬の弟・妹」という観点で抽出し、JRAでの成績を調べる。集計対象は現2~11歳世代で、兄か姉にJRAのGⅠ勝ち馬がいる馬とする。

※読み飛ばしOK
集計上の都合で今回は兄や姉がGⅠを勝った時期は考慮しなかった。たとえばAという馬の1歳上の兄が7歳で初GⅠを勝った場合、Aは厳密には6歳まで「GⅠ馬の弟」ではないが、便宜上デビュー時からの成績をカウントした。

集計結果は以下のようになった。

【兄か姉にGⅠ馬を持つ馬のJRA成績(現2~11歳世代)】
1着- 2着- 3着- 4着- 5着- 着外/ 合計( 勝率/連対率/複勝率) 単回収率/複回収率
全成績  711- 614- 542- 506- 477- 3108/ 5958( 11.9%/ 22.2%/ 31.3%) 66 / 71

単勝平均オッズ28.7倍≒平均支持率2.79%
1頭当たり獲得賞金2666万円

【兄か姉にGⅠ馬を持たない馬のJRA成績(現2~11歳世代)】
1着- 2着- 3着- 4着- 5着- 着外/ 合計( 勝率/連対率/複勝率) 単回収率/複回収率
全成績 34099-34043-33942-33874-33836-304323/474117( 7.2%/ 14.4%/ 21.5%) 72 / 73

単勝平均オッズ66.7倍≒平均支持率1.20%
1頭当たり獲得賞金1309万円

****

GⅠ馬の弟や妹は、そうでない馬たちより4.7%ほど勝率が高く、平均して2倍の賞金を稼ぐ。一方で、馬券的には倍以上の支持を集めるため、単回収率で6%、複回収率で2%ほど低い

この6%、2%の差をどう解釈するかは人によって分かれるところだろう。個人的には「大した差じゃない」と思う。回収率にもっと大きな影響をもたらすファクターは山ほどある。確かに良血馬はやや過剰人気傾向にあるものの「だから買うべきでない」と結論付けるほどの影響度も持っていない

ちなみに、新馬戦に限るとGⅠ馬の弟・妹は単回収率61%、複回収率71%、そうでない馬は単回77%、複回74%とやや差が大きくなった。こと新馬戦に限ると、安易に飛びつかないのが無難だろう。

なお「母がGⅠ馬」という馬についても調べてみた。こちらは全体の成績が単回収率67%、複回収率70%で「GⅠ馬の弟・妹」とほぼ変わらない数字。ただし新馬戦に限ると、単回収率54%、複回収率63%で過剰人気傾向が明らかとなる。余談だが、このグループの1頭当たり獲得賞金は3284万円と高額。アーモンドアイ1頭で平均を500万円以上引き上げていた。

「セレクトセール高額取引馬」は過剰人気なのか?

次は定義を変えて「セレクトセール1億円以上(税込)で取引された馬」のJRA成績を調べる。

こちらの集計結果は以下のようになった。

【セレクトセール1億円以上で取引された馬のJRA成績(現2~11歳世代)】
1着- 2着- 3着- 4着- 5着- 着外/ 合計( 勝率/連対率/複勝率) 単回収率/複回収率
全成績  495- 431- 315- 285- 286- 1569/ 3381( 14.6%/ 27.4%/ 36.7%) 75 / 73

単勝平均オッズ22.0倍≒平均支持率3.64%
1頭当たり獲得賞金4888万円

【上記を除く馬のJRA成績(現2~11歳世代)】
1着- 2着- 3着- 4着- 5着- 着外/ 合計( 勝率/連対率/複勝率) 単回収率/複回収率
全成績 27404-27290-27269-27144-27115-240333/376555( 7.3%/ 14.5%/ 21.8%) 72 / 73

単勝平均オッズ67.4倍≒平均支持率1.19%
1頭当たり獲得賞金1257万円

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「セレクト億超え」の高額取引馬は、そうでない組と比べて勝率2倍。馬券は平均して3倍売れるが、単複の回収率は悪くない。つまりこちらは先の例と違い「過剰人気」ではないと言える。まあ、値段と獲得賞金5000万円弱を考えると、馬主にとっての“回収率”はかなり悪いが……。

まとめ

今回は「良血馬は過剰人気なのか?」というテーマでデータを分析した。内容をまとめると

・「GⅠ馬の弟・妹」はわずかながら過剰人気になる
・ただし、他のファクターを差し置くほどの影響度はない
・「GⅠ牝馬の仔」は新馬戦で回収率が極端に低い
・「セレクトセール高額取引馬」は過剰人気ではない

「GⅠ馬の弟・妹(または産駒)」という触れ込みはいわば“七光り”であり、その馬個体の実力には関係がない。よってそれを理由に話題を集めると過剰人気になってしまう。一方、「セールで高値が付いた」という事実はその馬自身が勝ち取った評判なわけだから、人気になっても妥当ということだろう。

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鈴木ユウヤ

東大卒競馬ライター。中央競馬、南関東競馬を中心に情報発信している。単勝&ワイド。攻めて勝つ。