逃げ馬がいないGⅠ
宝塚記念の特別登録を見て最初に思ったこと。
「逃げ馬がいないなあ」
カラテとローシャムパークが条件戦時代に(といっても、後者は引っかかって途中から先頭に立った形だが)逃げたことがあるくらいで、典型的な逃げ馬はおろか、逃げの引き出しがある馬すらいない。
普通に考えればスロー想定で前残りになりそうなモノだが、果たしてそう決めつけてしまっていいのだろうか。ちょっと気になったので検証してみることにした。
「逃げ馬がいないGⅠ」といっても「逃げ馬」の定義が難しい。今回は「前走で逃げた馬がいない平地GⅠ」を過去10年遡ってみた。なおデータ集計の都合上、前走が海外の場合は脚質不明となってしまう。その辺りは大目に見ていただけると幸いだ。
具体例と特徴
2014年の宝塚記念から2024年の安田記念まで、JRAの平地GⅠは全238レース。そのうち「逃げ馬」(=前走国内レースで逃げていた馬を指す。以下同様)がいたレースは193戦、いなかったレースは45戦あった。逃げ馬不在の例も2割弱あると思うと、意外に珍しいことでもない。
直近で「逃げ馬不在」だったのは大阪杯。スタニングローズが色気を出してハナを切ったものの直線で力尽きて8着に終わり、勝ったのは2番手追走のベラジオオペラだった。やはり前残りなのだろうか。
と思ってデータを見てみると、あれ……? 逃げた馬の成績があまりよろしくない。ちなみに勝った2頭は16年ジャパンCのキタサンブラック、23年大阪杯のジャックドール。2着4頭は18年日本ダービーのエポカドーロ、19年宝塚記念のキセキ、19年スプリンターズSのモズスーパーフレア、20年NHKマイルCのレシステンシアという内訳。いずれも「前走は」逃げていなかったから今回の定義に逸れただけで、何度も逃げの競馬を経験してきた馬たちだ。
言い方を変えれば「逃げ馬がいないから」という理由で“付け焼き刃の逃げ”を打ち、連対した例はないということ。練習でやっていないことは本番で出せない。そんな解釈だろう。いつぞやの宝塚記念でシュヴァルグラン福永騎手が逃げて8着に敗れ、その後降板という事象もあったが、あれも不慣れな形が裏目に出た典型例といえよう。
ならばどう狙っていくか。不慣れな逃げは馬が戸惑うものの、前に行く馬が少なければ先行有利なことは事実。4角2~3番手の馬が【13-8-6-101】で複回収率114%。あるいは「前走で」4角2~5番手にいた馬が【17-23-25-233】で複回収率103%となっている。
もうひとつ興味深いのが騎手別成績。
ルメール騎手は「逃げ馬不在のGⅠ」でも成績が優秀で、思えばレイデオロで勝ったダービーもそうだった。前後のペース感覚に長けた騎手で、無策に後方待機して届かず……となることが少ない。
もうひとり、目を見張る成績がダミアン・レーン騎手。短期免許騎手のため該当例は7騎乗しかないが、実に6度馬券に絡んでいる。印象的だったのはリスグラシューで外枠から2番手をすんなり確保した、くだんの宝塚記念だろう。
まとめ
まとめるとこうだ。
・「逃げ馬不在の平地GⅠ」は意外にも2割くらいある
・前に行けば有利かと思いきや、不慣れな逃げは好結果にならない
・狙うは「4角2~3番手」にいそうな馬、あるいは前走で「4角2~5番手」にいた馬
・前後感覚に長けたルメール、レーン両騎手は頼りになる
以上を今回の宝塚記念登録馬に当てはめてみると、面白いのはジャスティンパレス(ルメール騎乗、前走4角4番手)、ベラジオオペラ(前走4角2番手)、ローシャムパーク(前走4角2番手)、シュトルーヴェ(レーン騎乗)あたりだろう。ソールオリエンスも前走は4角4番手だが、今回は後方待機が示唆されているのでちょっとズレるか。
さてどの馬、どの騎手がハナを切るのか。それぞれの思惑と展開に考えを巡らせつつ、しかし自分の買った馬は不慣れな逃げを打たないよう、祈りながら観戦するレースになりそうだ。